2021.5.25
素敵な花籃のご紹介
丁寧に細く整えられた竹ひごが、真っ直ぐにそして均等に並ぶ姿は、おそらく誰が見ても「美しい」という印象を持つことでしょう。
見ている人を清々しい気分にさせるのは、自由奔放な大らかさというより、古来日本人が大切にしてきた礼節や律儀さというものを、この花籃を通して感じるからかもしれません。
竹ひごが縦方向に真っ直ぐ並ぶこの技法は、真垣編みと呼ばれるもので、不必要に飾り立てずシンプルな繊細さを表現できるものです。しかしその制作には、手間のかかる材料の準備に加え、熟練した高い技術を必要とします。
花籃の側面を見ると、正面の趣とはまた違った美しさがあります。この花籃のタイトルである「飾り結び」がここにあるからです。
こちらも伝統的な編み技法のひとつで、くるくると円を描くような軽やかさが可愛らしく、直線的な真垣編みとは対照的なデザインです。
側面の飾り結びを含む上部の持ち手部分は、細いと言えどもしっかりとした作りをしており、太細のバランス、直線と曲線のバランスが自然と合わさって、心地良さのある落ち着いた景色を作り出しています。
この花籃が黒い色をしているのは、黒錆という仕上げ技法によるものです。表皮を磨いた竹に幾度も染色を重ね染め上げ、その後、漆を施し錆付けされています。真っ黒ではなく深い赤を含む黒には、独特の奥行があり、光を帯びてその姿は、より美しい輝きを放ちます。
それぞれの丁寧で繊細な仕事が合わさり、全体が調和して、それ以上でもなくそれ以下でもない美しさが存在しています。
素朴な花には 、その素朴さを引き立て、華美な花を合わせても、花に劣ることなく花籃の役割を十分に果たしてくれます。季節を問わず、また花も選ばず、懐の深さを感じる素敵な作品です。
黒錆の花籃に対して、白錆の花籃も制作されています。
白錆とは、表皮を磨いた竹ひごに染色せず、漆を施し錆付けを行ったものです。
爽やかで明るい景色は、黒錆の花籃とは違う美しさを纏っています。染色するかしないかで、こんなに印象が変化する花籃。けれど両方に共通する繊細さ、そして優しく花を引き立てる花籃としての役割は変わりません。
もちろん花籃それひとつでも、慎ましくある姿に心惹かれる作品です。
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